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鼓笛隊の襲来'08年3月刊

 今回は結構統一感のある短編集。荒唐無稽なシチュエーションの中で人と人との触れあいを見つめなおすっていうテーマが大半を占めてる。
 自分の記憶は本当に過去からの蓄積なのか(彼女の痕跡展)。変わったはずなのに実は以前と変わらない自分を見つめる(覆面社員)。自分が住む街が故郷なのだと感じる瞬間(象さんすべり台のある街)。同じものを見ていても実は違うものを見ているのではないかと感じてしまう(「欠陥」住宅)。
 ふとした時に常識じゃない考え方にとらわれる事はある。目の前で起きてることが本当に共通認識の出来事なのかとか。だから色んな思想家が色んなこと考えたんだろうけど。

〈あらすじ〉
(鼓笛隊の襲来)
 台風のように発生した鼓笛隊が戦後最大規模で襲来する。かつて大規模な鼓笛隊と遭遇したことのある義母が鼓笛隊への対応の心得を説く。

(彼女の痕跡展)
 恋人と呼べる相手がいなかったのに恋人を失った喪失感が重くのしかかってくる私は「彼女の痕跡展」という展示会を見つける。そこにはかつて自分が所有していたものが展示されていた。しかしそれらを失ったという記憶はなかった。ある日展示場へ電話して見ると主催者が電話に出る。その人物は誰かと暮らしていた記憶はあるのだがそれがだれかを思い出せないと言う。私は自分も同じだと告げると突然電話が切れる。ギャラリーへ駆けつけるが誰もいなく「彼女の痕跡展」もなかった。

(覆面社員)
 労働者の精神衛生面の権利保護の観点から「覆面を被る権利」が導入され世間では「覆面の市民権」が広がっていた。同僚の由香里が「青山紀子」と名乗り覆面を被り出勤してくる。それは不倫関係にある課長に対する意思表示と思われたが課長と結婚することになっても覆面を外すことはなかった。

(象さんすべり台のある街)
 住宅街の中ほどにある公園に本物の象のすべり台が設置される。ある日、住宅火災を見つけた象が鎖を引きちぎり逃げ遅れた女性を助け消火活動を行う。設置された時と同じ象ブームが起こるがその後象は消えてしまう。

(突発型選択装置)
 彼女を抱きしめた時、彼女の背中にボタンがあることに気付く。ある日二人の男が職場を訪れ、いつまでボタンを置いておくのかと訊かれる。「暫定占有申請書」なる書類にサインさせられ、くれぐれもボタンを押さないように言われる。

(「欠陥」住宅)
 高橋の携帯が不通になったため自宅へ電話を掛けるが、電話に出た奥さんは自宅へ伺っても「姿を見ることはできても会えない」と言う。毎日段数の変わる階段、次第に成長していくかのような子供部屋日々変わる窓の外の風景。ある日を境に住宅に異変が起きていたという。

(遠距離恋愛)
 飛代市が「浮遊特区」の申請をし、上空200mから1千mの間に滞在する浮遊都市となり、久美は恋人の雄二と特殊な遠距離恋愛を続けていた。

(校庭)
 娘の通うかつての母校であった小学校へ父兄参観で訪れた私は校庭に一軒の家が建っているのを見つける。娘の教室で一人だけ除け者にされている少女を見かける。その子は自分が小学生の時にもいたことを思い出す。夜の校舎に立ち寄る私は校庭の家から光が漏れているのを見つけそこに自分の会社の社員を見かける。

(同じ空を見上げて)
 5年前の2月3日、恋人の聡史を乗せた電車は乗客全員と共に姿を消してしまった。毎年その日の上り列車に乗れば、消えた列車を一瞬だけ見ることができた。その光を見送った後、聡史との思い出の品である知恵の輪がポケットの中で解けていることに気付く。
第四部 事件
 金田首相の凱旋パレードが行われている日に、元配送員の青柳雅春は旧友の森田森吾に仙台駅の東口に呼び出されていた。2ヶ月前、青柳が電車で痴漢に間違えられた時に偶然居合わせた森田が連れて逃げたことにも関係あるという。そこで森田から大学時代に恋人だった樋口晴子が結婚したことを聞かされる。
 森田は、会社での嫌がらせも痴漢に間違えられたのも仕組まれていると告げる。森田は借金を帳消しにすると言われ青柳を痴漢から逃がしたりここへ連れてこいと命令されたことを告白する。どこかで爆発音がし、森田は青柳に逃げろと言う。首相が爆死したと聞いたとき背後で爆発音が聞こえ、青柳は拳銃をもった警官に追われる。
 学生時代轟煙火でバイトしたがそれは雪掻きや工場清掃程度であった。
 井ノ原小梅とはハローワークで偶然知り合い、小梅が買ったラジコンヘリを青柳が預かっていた。
 警察に捕まり護送される最中軽自動車が突っ込んでくる。運転席から黒いパーカーの男が出てき、青柳を連行しようとしていた警官をナイフで刺す。その間に青柳は逃げ出すが黒いパーカーの男は通り魔の三浦だった。
  青柳が首相暗殺の犯人とされていること知った樋口晴子は青柳の報道に違和感を感じ警察の目をかいくぐりながらかつて青柳と乗ったポンコツ車のバッテリーを替える。
 青柳は自分そっくりに整形手術をした医者を見つけたとの情報を三浦が得てその病院に駆けつけるがそれは罠であり三浦はその罠により死んでしまう。
(ネタバレ)

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ゴールデンスランバー'07年11月刊
2008年本屋大賞受賞作

 第一〜三部を読んだ時は少しトーンを変えたかなって思ったけど第四部以降は伊坂ワールド。首相殺しの容疑者とされた青柳雅春の現在と過去の風景がカットバックで描かれる。多少ご都合主義的な協力者も現れるけど周到に用意された罠の中をどう逃げ出すか、追われる者と追う者のどうなるどうなるで一気に読めた。報道されている事の裏側に隠されている真実は何であるか。ケネディ大統領暗殺事件は詳しくないけどこんな感じなのかな。
 ラストはすっきりとはしないけどそれでもそれまでの怖さの中でホッとするシーンで終われる。
人のアイデンティティって何かってのも考えさせられる。自分についての嘘の情報を流されて、それは違うと気付いてくれる人がどれだけいるか。見た目以外に何で自分と分かってもらうのか。
 リョコウバトのエピソードも挿入されてた。
 「ゴールデンスランバー」とは直訳すれば「黄金のまどろみ」でビートルズの「アビーロード」に収録されている曲。「アビーロード」は「レットイットビー」の後に収録されたとの事で実質的なラストアルバムだそうで。バラバラになったメンバーの気持ちをひとつにしようとポールが取りまとめたらしい。

第一部 事件のはじまり
 樋口晴子は会社の元同僚平野晶と蕎麦屋で再会していた。金田首相パレードの最中、ラジコンのヘリコプターが爆発する場面がTVから流れる。
第二部 事件の視聴者
(一日目)
 病院で田中徹は同室の保土ヶ谷康志と金田首相暗殺事件の報道をTVで見ていた。
(二日目)
 容疑者は青柳雅春と報道され、2年前にアイドルの凛香を暴漢から救ったヒーローともてはやされた人物だった。
 TVでは青柳がラジコンショップに姿を現したこと、花火工場でアルバイトをしそこで爆薬の知識を得たこと、2ヶ月前に電車内で痴漢をはたらいた事などが報道されていた。軽自動車を奪って逃走し乗り捨てた車内からは女性教師が刺殺死体が発見されたことが報じられる。
(三日目)
 仙台市役所前の中央公園で青柳が投降するとして報道陣が集まっていた。そこへ青柳が姿を現す。
第三部 事件から二十年後
 金田首相暗殺の事件の真相は20年後も明らかになっていなかった。後任の首相となった海老沢克男首謀説。野党である労働党主謀説等々憶測が流れていた。一方で金田首相の愛人、ラジコンショップの店主、青柳が救った凛香を襲った暴漢、青柳が痴漢をしたとされる被害者、等関係者が次々と亡くなっていった。事件の真相を捜査していた刑事も事故死していた。彼は「青柳は犯人の濡れ衣を着せられたが当初犯人に仕立てられる予定だったのは別の人間だった」という説を展開していた。
(続く)
「舌きりすずめ」
 麦穂は自信のあった自作の小説が新人賞の1次通過ができなかったことに愕然とする。
 麦穂は優雅に暮らすことを目標に生きてき愛情をも得たいという気持ちで愛人生活を続けていた。
作家になれたら愛人生活も会社も辞めるつもりでいたが今回もだめだった。
 会社を休み傷心のまま入った喫茶店で同じ会社の島野と言う男に声を掛けられる。島野から麦穂と同じ総務部の片野京美が作家を目指し麦穂が落ちた新人賞の1次審査を通過したことを知らされる。
 京美が新人賞を受賞し麦穂は会社を辞め、ふと入ったビストロポムドテールで働く。ある日ポムドテールに京美が客としてやってくる。自分と京美を比較していることに気付き慌てて否定する。
店を出て島野に声を掛けられ自分は死神であると聞かされる。麦穂が死ぬ運命だったのが誰かと入れ替わったがこうやって自分の姿が見えるならまた運命が入れ替わったかもしれないと言う。色々考える麦穂の前に愛人の塩崎が現われ、会社が倒産寸前となり愛人関係の解消を切り出される。
 京美が再び客として訪れ二人で食事をする。京美は職場でのいじめがあったことを告白する。京美は知り合いの批評家からの話で、麦穂の作品は間違って受賞できなかったのではないかと告げる。自分の運命が入れ替わったのは京美ではないかと気付く。京美がその場で倒れ病院へ搬送され胃がんと診断される。京美の姉の話から肉体的な苦痛を忘れてしまえるほど小説を書いている時が幸せだったのだことを知る。
窓際の死神(アンクー)'04年12月刊

 愛する人の死期が迫っていることを知り自分の命と交換できるとしたら何を選択するか。自分の命の意味とは何か。生きることの意味を考えさせられる作品。この人の作品にしては性愛を取り上げてはいないな。
 生きることに執着があればぎりぎりのところで色んな考えが回るんだろうな。

「おむすびころりん」
 同じ会社の布川恭助を好きになった佐野原多美はその後恭助が相馬絵理と恋愛していることを知る。絵理がきれいになったのを見て、多美はダイエットを始め塩むすびひとつを持って会社に行くようになる。多美は「絵理が死ぬ」という想像が頭に漂っている自分に気付く。そんな時総務部の島野と知り合う。
 多美は島野に絵理が死ぬことを想像していることを打ち明ける。島野は多美に死を察知する能力があるのではと言った上で、自分は死神だと言い、死ぬのは絵理ではなく恭助が三日後に死ぬことを告げる。恭助の健康診断の結果を見た多美はそれを知った上で死ぬと言ったのだろうと島野に問い詰める。島野は、多美が周りの人の寿命に影響を与えていることを告げ恭助から遠ざかるか自分の寿命と交換するという二つの選択肢を与える。
 多美は交換を選び、秩父の実家へ帰り幼い頃の日々を思い出す。多美を見かけた幼なじみ時枝が訪れる。時枝は当時多美を幸運の女神として思っていたことを告白する。
 突然絵理が多美の実家を訪れる。恭助が昨夜ドライブに出かけたまま帰って来ず、島野から多美が恭助の居場所を知っているはずと聞き多美を探し訪ねてきたと言う。多美は島野に電話し問い詰めると、恭助は崖から転落し明日の1時までの命であることを告げる。自分の命との交換を告げようとするがここまでの自分の命は自分だけのものではないと気付き言葉に詰まる。
(ネタバレ)

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